荒山徹『十兵衛両断』[bk1]

全5話の短編で構成された、政の裏面を担う柳生剣士団と陰謀を巡らす朝鮮魔術士の暗闘…人格転移術による肉体の強奪、掘り出された死体の斬首、妖蟲によるコピー人間、呪殺陣…伝奇時代小説というよりもウィアード・テールズ風ソード&ソーサリィ、というかロバート・E・ハワードが日朝を舞台にヒロイックファンタシィを書いたらこんな感じになるんじゃないでしょうか。かなーり趣味にマッチしていて、楽しませてもらいました。
それにしても参考とされてる資料のなんと胡散臭いことよ(笑)。おもに韓国側の文献に拠っているのですが、例えば表題作「十兵衛両断」に用いられた“柳生十兵衛二人”説、そこに“柳三厳(ユ・サム・オム)”とか、“のちに十衛(シップウイ)と号した”とかが飛び出してくると「なんじゃこら」と思っちゃいましたね。その後日譚で本書最後に収められている「剣法正宗溯源」にはこんなトンデモ説を皮肉ったようなエピソードを物語の発端としてとりあげていて、ちょっと苦笑い。