先日読んだリーアム・キャラナン『漂流爆弾』[ハヤカワ文庫NV]も↓のようなアメリカン・ロマンの系譜の傍流に連なるだろう秀作だった。“日本軍が放った風船爆弾を発見して安全処理し、同時に日本軍のスパイを探し出せ”という内容紹介から喚起される勇壮なスペクタクルやサスペンスを期待する向きにはたしかにどこをどう読んでも面白くない小説でしかないだろうけど、これを“オブセッションとメランコリーのブレンドされた矮小さと酷薄さをもつ(主人公にとっては)絶対権力としての上官ガーリイ大尉”や“偽シャーマニックで微エキセントリックな謎の女リリー”と“18歳の少年兵”を愛憎綯い交ぜの擬似家族的ドラマととらえるととたんに面白みが浮かび上がってくる。そしてそれがアラスカという隔絶された閉鎖空間の中で、リアルからリアリティを剥奪したような、具体的でありながら確固とした手触りが感じられない、幻惑的といってもいいような奇妙な浮遊空間を作り上げ、寓意性に陥りそうな一歩手前の喜悲劇を見せてくれる。ロバート・F・ジョーンズの『ブラッド・スポーツ』やパトリック・オリアリーの諸作からファンタジックな要素を極力削減して、なおかつ作品そのものの手触りは残したような小説といってもいいかな。新潮社のクレスト・ブックスが好きな方にはお勧めしてみたい。