ウィル・マッカーシイ『アグレッサー・シックス』[ハヤカワ文庫SF/早川書房][bk1]

オリオン座方面から到来した異星の艦隊の斥候部隊に襲撃され蹂躙される人類圏。彼我の圧倒的な戦力差の中、絶望的な戦局を打開するため、戦力のほとんどを犠牲にして遂行された“ハエタタキ作戦”においてかろうじて捕獲できた敵死体の神経系統から異星の言語形態/思考形態を再構築してそれを<言語中枢網>に組み込み、人類の被験者に異星人の行動規範をシミュレートさせることによって敵の行動を予測するというプロジェクトがおこなわれる。その名も“敵情調査班6”(アグレッサー・シックス)…
そんな悠長なことをしとる場合か
確実性も効果も期待できそうにないプロジェクトを、こともあろうに人類殲滅が刻一刻と迫ってくるときにのんびりやってるほうがオカシイっちゅうの。おまけに“女王”様に“犬”に2種類の下僕がそれぞれ2人づつという異星人の6人1単位の集団形態もバカにしている。ハエタタキ作戦において殺戮の凄惨な光景を命からがらくぐり抜けもうどうにもトラウマしょったうえでこのプロジェクトに放り込まれた伍長なんか、異星風の言語変換機付のゴムマスクかぶって悦に入り牧野修作品ばりの狂態/醜態を晒しているし、他の面子だっていきなり自分の過去を語りだして、もうあんたら本当に戦争する気あるんですかと。冷静に見ればこのプロジェクトは一種の阿呆船で、戦闘に役に立たない連中を適当な理由をつけてちょっとした左遷の刑に処せられているようにしか見えない。しかもそのままごとみたいなプロジェクトを続けているうちに被験者たちは本当に異星人的思考をおこなうようになり、敵異星人のことを指して“われわれ”を呼ぶようになったり、なんだかんだで仕舞いには戦闘を終結させることのできる重大な事実(?)に到達する…っていうかこの最終結論を得るところなんか「じゃあいままであんたらアグレッサー・シックスがやってたことってなんなんの?」という脱力感モノ。しかもその得た情報も、背後で時間単位で数十億の人間が死滅しているところ考えに入れれば、もう悪質な冗談としか思えない。
行き当たりばったりの狂気を抱えたフモールが“戦争における正気”を食い荒らしていくところはどちらかといえば映画『まぼろしの市街戦』の合い通じるかもしれない。表紙絵だって吾妻ひでおが描いたほうがずっとマッチングするはず。とにかく読み手が期待するツボをはずしプロットを脱臼させるこの感覚はまさにオフビートと呼ぶにふさわしいもので、“最近どんな本手にとっても先が読めちゃって萎えるんだよね”というすれっからしには最高のプレゼントじゃなかろうか。→ しかも、かろうじて存続することのできた人類は、どうやら続編では異星人とおなじ社会体系を取っているらしい…なんだ文化的な意味では結局人類絶滅してんじゃないですか、きっついなあ。 ←。大絶賛。しかしコレ読んで誉める人って、自分で言うのもなんですが結構へそ曲がりなんじゃないかと思う。追記:念のために書いておきますが大絶賛しておりますよ。