中央公論新社 『ウルトラマリン』 レイモンド・カーヴァー/村上春樹訳 9/- \1,155 
中央公論新社 『二度目の揺れ 回送電車3』 堀江敏幸 9/- \2,310 

河出書房新社 『悪魔の薔薇』 タニス・リー/安野玲訳 9/- \1,995 
河出書房新社 『美の理論 新装完全版』 T・W・アドルノ/大久保健治訳 9/- \12,600 
河出書房新社 『模倣の法則』 ガブリエル・タルド/池田祥英、村澤真保呂訳 9/- \4,725 

bk1より。島田虎之助『トロイメライ』を読む、泣く…っていうかニコール・クラウスの『ヒストリー・オブ・ラヴ』もそうだったけど、ひとつの主題に乗っていくつかの独立したエピソードが終端に焦点をあわせていくという形式に、作劇上のあざとい技法だということはわかってはいても、どうやらとことんぼくは弱いらしい。帝国主義の時代に造られた植民地用のための頑丈で音の狂わない安価なピアノ“ヴァルファールト(巡礼)”の、ある特別な一台の修復を依頼された者、そのピアノの素材にまつわる“2度の大戦”にも関係した呪いにかかわる事となるサッカー好きのアフリカの少年、イラン・イラク戦争で過去を負った仏像職人、ジャカルタ共産党狩りで音を失った者たちの、それぞれが時折交錯しながら奏でる旋律が高鳴りながら凝縮していくダイナミズムは、もはや体感的な快楽といってもいいんじゃないかな。それは小津安二郎を主題としたミニマルな、しかし物語が交錯するうねりは勝るとも劣らない『東京命日』や、奇跡のバイク“エルドラド”、チェルノブイリの7聖人、世界最初のコスモノーツになりそこねた男等、伝奇的/神話的な、しかし市井のファクターが眠れる火の山・富士のふもとで狂騒する『ラスト・ワルツ』ともども超お奨め。あ、シマトラが気に入ったなら『ヒストリー・オブ・ラヴ』もお奨め、題名から想像してしまうような甘ったるいロマンスではまったくない…最後の最後までとっておかれたとびきりの切なさを除けば。ああ、なんだか祖父の作った鹿児島刑務所の門から始まる山下洋輔の時空を超えたおおむねノンフィクションの奇書『ドバラダ門』も読み直してみたくなってきたぞ。