北野勇作『人面町四丁目』[角川ホラー文庫/角川書店][bk1]

北野勇作角川ホラー文庫第一作『ハグルマ』[bk1]は牧野修に憑依されたかのような肌触りが気色悪〜い生理的嫌悪感を催させるホラーだったけれど、今作はまぎれも無い北野印。郷愁を誘う下町長屋のテクスチャーのコーティングを引っぺがすと、世界戦争級のオーヴァテクノロジーが見え隠れする、『かめくん』[bk1]や『ザリガニマン』[bk1]でおなじみの世界。今回は“人面犬(魚)”や“口裂け女”のような都市フォークロアの面々に彩られた奇譚エピソードの連作集のかたちになっている。“市場”だとか“パンの耳”だとか“洗濯機”だとかちょっとなじみのコトバに出会っても、それが読み手が期待/想像するようなイメージ通りのものじゃない、もっと得体の知れないナニカであるという独特の不穏さも健在。物語の背景をつつむ懐かしい風景が“失われることを前提としたアンビエンス”がまた切ない。