コリン・ベイトマン『ジャックと離婚』[bk1]

巻き込まれ型サスペンスの面白さのバロメータのひとつは、主人公がどれだけ不条理で悲惨な状況に転げ込んでしまうかだと思っているのだけれど、そういう意味ではこの本、そうとうにポイントが高い。酔った勢いで女子大生にキスしたところを妻に見つかり「24時間以内に出て行って」! 数日後に女子大生は銃撃され、最後に残した言葉が「ジャックと離婚」? 殺人容疑をかけられ、警察と、なぜかギャング団と軍隊にまで追われ逃げ回るわれらが主人公広川太一郎ダン・スターキーの明日はどっちだ! ←いや失礼(笑)、でもほんとにひと言多いんですよこの主人公。踏んだり蹴ったりの目にあってよくここまでへらず口をたたけるものだと。ただ広川太一郎というにはひと言ひと言に皮肉が利きすぎてる感じはありますが、それはIRAテロリズムに対する確固たる怒りであり、カトリックプロテスタントの確執が陥っているどうしようもない袋小路に対する憤りからくるもので、リズミカルな語り口と機知に富んだユーモアのあわいに垣間見えるアイルランドの現状のやるせなさはかなり辛いものがあります。まぁそんな重たいこと考えなくても、陰謀のピンボールマシンのなかに落とされたような広川太一郎ダン・スターキーの受難を愉しむスラップスティックとしてだけ読んでもかなりイケルお話ではありますね、オススメ。