米澤穂信『さよなら妖精』[bk1]

…ちょっとほろ苦い青春小説の小品で好きか嫌いかといわれれば好きと言うだろうとは思うのだけど…。『亡国のイージス』評のなかに「あれだけの人間を動かすきっかけになった“論文”があの程度のものでいいのだろうか」という趣旨のものを見かけたことがありましたが、ぼくの『さよなら妖精』感はそれに近いです。bk1に著者が寄せたコメントには“突然現れこちらの生活をかき乱すだけかき乱して帰っていく存在に喩えられるものとして、私は「妖精」以上のものを思いつけませんでした。”とあるんですが…マーヤは確かにキュートではあるし「哲学的意味がありますか?」とかいう台詞もぐっとくるけど、どちらかといえば終始おとなしめで、主人公に終盤“ある決意”を抱かせるほど魅力があったとは思えませんでした。お話はマーヤとの交流と、その中で出てくるちょっとした日常の謎を解き明かしながら進んでいきますが、その謎の真相へと至る目の良さとちょっと気取った物言いが恰好いい太刀洗万智のほうが、ぼくにとっては断然存在感があって…いっそ謎解き役者をマーヤのほうにして“最初は何がおきてるのかわかんなかったけど、日本の風習とその意味を教わることで謎を看破する”ような設定にしたほうがキャラクターが立つんじゃないかな…とかは思いましたね、まぁ余計なお世話ですが。