宇月原晴明『聚楽 太閤の錬金窟』[bk1]

グノーシス、異端信仰、錬金術ホムンクルス、ジル・ド・レとジャンヌ・ダルク…大量の西洋風歴史幻想小説のガジェットを、“殺生関白”と呼ばれた秀次の切腹およびその妻子や側室三十九人も処刑するにいたるまでの物語の背景として、これでもかと詰め込んだ酸鼻きわまったグロテスクな伝奇小説の力作で大変面白かったです。しかしながらファンタジーノベル大賞を受賞した前作、両性具有の織田信長サロメよろしく近隣の武将を篭絡して回った『信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス[bk1]が伝奇小説というよりもオスカー・ワイルドユイスマンスのようなデカダン文学の蟲惑を漂わせ、時代小説との強烈なミスマッチを醸し出し、それがゾクゾクしてくるような魅力をたたえていたのと比べると、なんかフツーの伝奇小説っぽくなっちゃったなぁって思ったりはしました。神話的な作品群を生み続けたプログレッシヴ・ロックバンド“YES”がロンリー・ハートみたいなポップソングを作っちゃったときに受けた感じにも似てますか…いやロンリー・ハート聚楽も大好きな作品ですけどね(笑)。