マックス・バリー『ジェニファー・ガバメント』[bk1]
絶賛したい。クリスピーな会話、コンパクトな章立て、ステロタイプながらもやたらと活きのいいキャラクター、読み始めたら最後まで頁を捲る手を止めさせる要素なんて無いのだけれども、普段なら映画化決定!の宣伝文句だけで全力で回避するタイプの作品であります。それを今回手に取ったのはSFマガジンの書評をみて、作品の世界観にちょっと気を引かれたから。とりあえず出だしの50〜60頁ぐらいにでてくる設定を箇条書きにしてみると→ ①この世界の人間はセカンドネームにナイキ、ミツイ、NRA(全米ライフル協会)、ガバメント(政府)などの企業団体名をつけてる②転職したら改名、失業したらファーストネームのみ③政府の統率力が失われ、二つの広告会社によって世界が運営されてる④支配原理はマイレージサーヴィス⑤ストリートギャングによる強奪に見せかけて客を殺害することによって、商品のレアアイテム化を狙った新製品の販促プロモート⑥それをうっかり請け負ってしまって業務遂行規定に縛られた気弱なドジが契約を下請けに出した先は警察⑦警察は政府と別物で、署内のBGMはポリスの“見つめていたい”⑧警察はさらに契約を下請けに…⑨いよいよ実行されようとする計画を阻止しようと丈の長いコートに身を包んだサングラスのガン・ウーマンジェニファー・ガバメント⑩救急車を呼ぶのにもクレジット会社の照会が必要⑪警察による捜査には被害者による依頼が必要⑫税金は無し ←とまあ事件の発端だけでこれだけのものがあって、以降も要所要所に抜け目無いくすぐりを入れてくるサーヴィスぶり。共産主義が“平等”を基本理念としているとすれば、この世界の資本主義は極端に解釈された“公平”を原理としるような感じかしらん。解説ではディストピア物とかサタイアとか書かれてますがそんな重苦しい雰囲気は無し。80年代くらいまでなら「1984」「未来世紀ブラジル」のような重いユーモアをまとった作品になったのかもしれませんが、この作者にはそんな屈託はまったくなさそうでモンティ・パイソンmeetsハリウッド・アクションと形容したくなる極めてポップなドライヴ感が本作を貫いてます。プロットは冒頭に紹介されている6人(6組?)にひとつずつ用意されていて、事件の周りにとぐろを巻くように別々に配されたプロットが、ひとつまたひとつと合流してくるにしたがって多弾頭ロケットのブーストのように状況がエスカレートしてどんどんとんでもないことになっていく、とくに主要人物ハック、バイオレット、ビリーのしょーもない行動といったらまぁ…絶品であります(笑)。ゲテモノでありながら口当たりさわやか後味すっきり。胡散臭くてパチモンめいた名前の訳者による翻訳もノリノリ。
.。oO( それにしてもビリーのどうしようもなさは惚れ惚れするなぁ )