マンリイ・ウェイド・ウェルマン『ルネサンスへ飛んだ男』[扶桑社ミステリー/扶桑社][bk1]
銀の弦のギターを抱えたさすらいの歌い手ジョンがその行く先々で出会う怪異を描いた地域色たっぷりの妖怪紀行というべきか洋風聊斎志異ともいうべきか、そのとぼけた味わいで民話/伝承大好きっ子だったローティーンだった頃の魂を引っ張り起こしてくれたフォークロア集『悪魔なんかこわくない』[アーカム・ハウス叢書/国書刊行会][bk1]は本棚の隅っこに鎮座ましましております、まっこと座敷ワラシのようなブキミでキュートな魅力をたたえている一冊でありまして…とはいえどう考えたってマイナーポエット、いまごろになって翻訳されるとは夢にも思いませんでした。いや、最近のファンタシィ/奇想小説のちっちゃいムーヴメントから考えれば“バラード歌手ジョン”のシリーズから一冊ぐらい訳されてもおかしくないかな…ぐらいは潜在意識にあったかも。しかしながら今回訳出されたは“Twice in Time”、由緒正しくもコアど真ん中のタイムトラベルもの。「離れた時代に人間を投影するため、その時代で再構成されるためには動物の死体などが必要」( キタ━!! ) 、「国立図書館の古文書書いてあったこと…ミトラ信仰の秘儀-雨乞い-祭壇に雄牛…」( キタ━!! ) 、「盗賊の守り神、メルクリウスにかけてあんたは本当に反射しているらしい。それとも生まれつき左利きなのか?」( キタキタ━!! )…とまあ稚気満点のガジェット盛りだくさんで、コレ以降も数々の苦難/クリフハンガーを未来人ならではの知識で乗り越えていく臆面の無さには大興奮。アイデアその他ラストのオチまでどこかでみたような読んだようなという意見は野暮/却下。こー言う“キタ━感”を大切にしていたか、それともおろそかにしていたかが、ともにジャンル的閉鎖の道を歩んでいた“新本格”と“SF”の、現状における隆盛の差に現れているとぼくは考えている。“密室”“見立て”“不可能犯罪”等古臭いガジェットにこだわり喜びのコロスをあげ続け楽しんでみせた新本格ファンのスピリットこそSFというジャンルが必要としているものじゃないのかな。そのためにも『ルネサンスへ飛んだ男』みたいにB級臭漂うガジェットSFを、そう月1冊ぐらいは出して欲しいのですよ→ハヤカワとかの中の人。ハリィ・ハリスン復刊もいいけど、基礎教養なしでいきなりパロディを提出するのはいかがなものかとは思う。いやSF基礎教養なしでもハリィ・ハリスンは抜群に面白いけれど、それより先にハインラインの短編集(4冊の傑作選と3冊の未来史もの)ぐらいはすべて手に入るぐらいにして欲しいのですよと小一時間…。