ポール・L・ムーアクラフト『独房の修道女』[bk1]

独房のなかでひたすら神に祈りつづけて生涯を送ったという“隠修女”。中世英国に実在したという隠修女クリスティーンの生涯を記すことに憑かれた司祭デュヴァルは、その妄執のあまり、その土地に引っ越してきたばかりの女性マーダに目をつけ、拉致、監禁そして教化し、自らが理想として描いた隠修女に仕立て上げようとする…。
話の筋そのものはいわゆる監禁物としてのフォーマットを大きく外れるものではない本書の大きな読みどころになっているのは、冒頭にエピグラフとして掲げられたパスカル“宗教的確信にもとづくとき、人間はもっとも周到かつ陽気に邪悪をなす”というフレーズに集約されるといっていい。聖なる事業の名の下に司祭デュヴァルが書き記す隠修女クリスティーンの“伝記”は、それこそ(メル・ギブソンの映画『パッション』がそうであったように)ある種のカトリック教徒にとっての欲望を満たす(性表現のない)ポルノグラフィのようだ。マーダが司祭の狂気におののきながら、機嫌を伺い、なだめ、隙を探りながらの教義の討論の場面のテンションもすばらしい、一気読みのサイコサスペンス。…最後の頁に仕掛けられた、ちょっとしたツイストをどう読むかで読後感は結構違うと思いますね。