海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』[bk1]

一部で妙に(というか妙な)評判をとっているこの作品…記憶を持たない少年が目を覚まして見いだしたのは、エロゲー的にステロタイプな12人の少女と、彼女たちが棲みついている“学校”と、そこで今まさに繰り広げられている連続レイプ事件だった…というくくりはもう序盤からどうでもよくなる。佐藤友哉的なモチーフを、舞城王太郎が近作でおこなっているような観念的手法と文体の暴力で原作を捏ね繰りまわしたポルノグラフィ…というコンセプトのもとに執筆されたんじゃないかと思われます。シチュエーションはもちろん、犯人からの落書きのようなメッセージとか、現場検証のため犯行を再現/再演する探偵と被害者の倒錯した性交とか、突然提示される“学校”の仮構性とか、ラスト近くにおいてはそれこそ西尾維新張りの戯言まで登場する念の入れよう。そしてこれまた“セカイ系”にうってつけのエンディング付。「こんだけ盛り込んだんだから、ポストモダン界隈の連中ならもう一も二も無く股を濡らすだろうぜ」、っていう感じ?
そう、これは佐藤舞城西尾を読むような人に向けて投げつけられたポルノグラフィ。ポルノといっても煽情されるのは性的リビドーじゃない。セカイと自己の関わりについて/サブ・カルチャーとセカイの関わりについて/自己とサブ・カルチャーとの関わりについて、そのあわいに存在するかもしれない法則を見つけだしたいという、いわば“人文学的な世界征服としての語り/騙り”を嗜好する人の、解釈への欲望をビンビン刺激する商業ポルノグラフィです。“カタりへの欲望に憑かれた人にむけて提出された煽情のテクスト”というイメージボードは、もともと佐藤舞城西尾に対してぼくが抱いていたもので、そういう意味ではこの『左巻キ式ラストリゾート』という本は、「おめぇらの書いてるモンなんて所詮この安っぽいエロ本とかわんねぇんだよ!」、という挑発のようにも思える…ってのは考えすぎのような気がしないでもない。ファウスト読者だったら手にとってみるべきでしょう、品切れになって伝説の書にならないうちに(笑)。エロったって「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」くらいのエロだし。