小林信彦『面白い小説を見つけるために』[bk1]

…手に取ってみたら『小説世界のロビンソン』ISBN:4101158223。レーベルといいタイトルといいなんかハウトゥー本みたいでやだなあとか考えながらもやっぱりこの傑作が手に入りやすくなったということは喜ぶべきでしょう。好きな本について語るっていうことは、つまりは自分の趣味趣向、自分に影響を与え今日の自身を作ったものについて語るっていうことで、必然自分史を物語るっていうことになる。『小説世界のロビンソン』における小林信彦の場合遠慮が無い。生まれてから批評家/小説家小林信彦がうまれるまでの読書と思考を煽情たっぷりに書き上げている、明晰な視点を忘れないで、それでいて熱く。当てられるこっちはたまったもんじゃない、おかげでデュマ、バルザックディケンズ、『大菩薩峠』、『富士に立つ影』…当時「そんな古臭い小説はちょっとね」と考えてほうっておいた本を次々読まされるはめになった。『ラブイユーズ』について語りつくしている項は何度読み返しても腰が落ち着かなくなる。何度も読み返しているにもかかわらず、ついもう一回バルザックを読み返したい気分にさせられる。本書の最後にはぼくにとってのベストの小説とは、くりかえすようだが、<登場人物とともに長い人生を生きたと実感できるような小説>である*1と書かれているけれど、そのフレーズ、ぼくは『小説世界のロビンソン』という本に対してあてはめたいですね。

*1:新潮文庫版『小説世界のロビンソン』p406