貴志祐介『硝子のハンマー』[bk1]

密室、監視カメラ、介護用のロボット、サル…先行する数々の本格ミステリを思わせる趣向に彩られた事件、パズルを構成するさまざまな要因とそれについての緻密で詳しい検証、大胆な仮説、冒頭でふんだんに盛り込まれたレッドへリング、仮説を組み立てては破棄することの繰り返し、その末にたどり着いた意外ではあるけれどアクロバティックでは無い真相、とまぁ本格謎解き小説としてはまさにお手本のような完成度。探偵役の防犯コンサルタント(実は…)と新米弁護士の掛け合いもたのしく、ここに犯人を追い込むラストの見せ場を付け足せばそれで文句の無いパズラーの秀作になったでしょう。そんな緊密な展開を台無しにしかねない第2部の、まさに殺人へと至るコンビネーションを辿った犯人の肖像の濃密な描写をもってきて、いってみれば“罪と罰”についての物語にしてしまうとこ…もしかするとある種の本格批判なのかもしれませんね。→ 意図せずして現場が密室になってしまったことが、事件に疑念を持たせてしまう要因になった ←なんて感じの事を犯人に考えさせてるし。