ジェイムズ・P.ブレイロック『魔法の眼鏡』[bk1]

両面が表の1㌣銅貨と引き換えに、金魚鉢いっぱいのビー玉とともに手に入れた魔法の眼鏡をかけると窓の向こうには別の世界がひらけていた! その世界に迷い込んだダニーとジョンの兄弟はそこでゴブリンたちに眼鏡のレンズを盗まれてしまう。眼鏡がなければ元の世界には戻れない…と、まぁ本書は実にオーソドックスな行きて帰りしジュブナイル岩波少年文庫に入っててもおかしくないような佳作で、とく兄弟がゴブリンに襲われているところを助けてくれる、ドーナツ中毒にして魔法の発明家ミスター・ディーナーの素性がわかってくるあたりからは一気読み。妻を失ってから言動がおかしくなったミスター・ディーナーの人物像の切ないこと…ちっちゃい人からおっきい人まで広くオススメ。でも、ブレイロックっていったら『ホムンクルス』や『リヴァイアサン』などのねじれにねじれた陰謀と奇怪な怪人物の大群とワケのわかんない機械がわんさと出てきてプロットの収拾がつかなくなって話の筋が見えなくなってくるあのマッド・ファンタシィだろう…っていうモノズキなひとにはオススメしません(笑)、っていうか読了後は「ブレイロックがこんなにわかりやすくてはイカンのではないのかっ!」とか思っちゃいましたよ、ええ。『魔法の眼鏡』というお話そのものは大変楽しめましたが、ブレイロックだったらもっと他に訳されるものがあるんじゃないんですかね、というのも正直な感想です。『真夏の夜の魔法』[bk1](旧題・『夢の国』)はまだ新刊で買えるのでいちどお試しくださいな。