トム・フランクリン『密猟者たち』[bk1]
沈鬱と畏怖を交えて美しく謳いあげられた自然と、死と暴力とそれに準ずるものを暗示しながら綴られる人々の生き様の、まさに南部ゴシック典型といえるこの短編群はそれにしてもすばらしい作品ばかりでちょっと興奮気味。特に冒頭の序文「ハンティング・シーズン」と一番最後に収められた表題作「密猟者たち」は傑作。前者は少年時代の作者の、狩猟と父と弟に対するアンビヴァレントな心象をえがいた少年小説として胸を打つ一品。後者は、ほとんど神話的な佇まいをみせるバーバリアンのような三兄弟をめぐる、ピーター・マシーセンを髣髴とさせるような血の匂いが全編を貫く叙事詩で、ぎりぎりまで削ぎとられたプロットが醸し出す緊張感がたまらない。ほとんど姿をみせないのにもかかわらず、三兄弟をじわりと追い詰めていく伝説的な狩人の存在感もすばらしい。物語の根幹を曖昧にしたまま、その周辺に集う人間たちを描くことでテーマを浮き彫りにしていくのがトム・フランクリンの手法のようで、それはまるで暗く濁った水路を目の前にするときのような、どれだけの深さで何が棲んでいるのか見当がつかないような気味の悪さ、居心地の悪さがある。それは十数頁の小品に顕著で、「青い馬」「衝動」なんかは一見ちょっとしたスケッチにしか見えないのに読んだ後々まで重い情動が抜けない不気味さがあってなんとも忘れがたい。著者の、昨年発表された長編も相当に血なまぐさそうで*1邦訳を期待したい。オススメ。
*1:ISBN:0688167411のBook Descriptionによれば…なぞめいた殺され方をした政治家の犯人と目される人間を断罪するために結成された秘密結社による大虐殺云々…