機本伸司『神様のパズル』[bk1]
『メシアの処方箋』で感じた不満点はそのまま本書にも当てはまります。登場人物の成長するきっかけが、物語の本質的なテーマであるはずの“宇宙を作る”ことをめぐる議論とは別のところであったりとか、そもそも“宇宙を作る”ことをめぐる議論自体が曖昧であやふやなまま話を進めたりとか。そういうところはあるけれど、『神様のパズル』を、けっこうニコニコしながら読み終えることができたのは「宇宙は“無”から生まれた」と、彼はいった。「すると人間にも作れるんですか? 無なら、そこらじゅうにある−−」*1とか「…無から生まれた言うんやったら、人間が作らんでも、そこら中で宇宙が誕生するということになるんとちゃうか?」*2とか、物理を語る言葉と神を語る言葉がひとつであったギリシア哲学的…とでも言いたくなるような詩的なポテンシャルをもつフレーズにしびれたから。エピクロスやルクレティウス、ベルクソンからはてはリグ・ヴェーダやホフスタッターの『ゲーデル・エッシャー・バッハ』[bk1]までむさぼるように読んで、何とか“宇宙”を語る韻文のひとつでも詠んでやろうとむきになっていたハイティーンの甘酸っぱい記憶が蘇ってきたからでもあります。こういうコピーライティング的なハッタリをもっと前面に押し出してくれるようになれば、ぼくとしてはとても期待したいんですけど、そういった方面に向かってくれるのかどうか、いやはや。あ、それから主人公がなんだか愚痴っぽいのはこっちの本でも同じでした。これは正直勘弁。等身大の人物像を設定したつもりなのかもしれませんが、うーんうーん。