森見登美彦『太陽の塔』[bk1]

読んだ、泣いた、歓喜の涙だ! すばらしく愉快、本年度ベスト1はこれに決めました。っていうかこの本をクリスマスイヴに読めた俺バンザイ(笑←読めばわかります)。恋に破れた男の”負け惜しみ”で埋め尽くされてる一編の手記の形を借りた青春小説…ではあるのだがもうこれは負け惜しみなんていう矮小で陳腐な表現を使うのは失礼なほどの高みを極めていて、自己正当化の妄想によって支えられた力強く圧倒的な、それでもやっぱり負け惜しみとしか言えない負け惜しみにはもう笑い転げました。非現実的要素はまったく無いもののまさにこの主人公の思考の志向はファンタジー的でありまして日本ファンタジーノベル大賞受賞も納得の妄想力です。こんな衝撃は『処女少女マンガ家の念力』以来かも。滝本竜彦読みの人にも読み比べていただきたい。
一方、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞の渡辺球『象の棲む街』[bk1]は…これは語り口もよく一気読みな小説なのですが米中二大国に支配され、すべてを失った日本。高配した東京に囲い込まれた人々の唯一の希望は、一頭の「象」だったっていう宣伝コピーはどう考えてもピントがずれてます。そもそも象が全然でてこない。でてきたとしても、すでに存在そのものを忘れ去られた伝説の大きな生き物として一言二言話題にでてくるくらい。ねー象まだでてこないのーとも言いたくもなります(笑)。でもそういうところを除けば、大変面白く読めました。スラム化した街で騙し騙され奪い奪われながらなんとか生延びていく人々のオムニバス小説で、この間読んだ盛田隆二『ストリート・チルドレン』に通じるものもありますが、ガジェットに淫してない『アド・バード』『水域』『武装島田倉庫』(椎名誠)と言う感じもします。そしてこの小説も(『太陽の塔』と同じように)あまり非現実的な要素は無く、ファンタジーと言うよりも戦後復興小説の一種と言ったほうが似合うんじゃないかな、とか思ってたら最後の最後に…。でも、これじゃそこまでの展開と比べるといきなりすぎて唖然とする人のほうが多いでしょう。”象”というコンセプトを生かしきらないまま書きあげてしまった印象ですね。文章のドライヴ感はなかなかなので次回作に期待。