大塚英志『僕は天使の羽根を踏まない』[bk1]

書き下ろしの後半部は、思っていたとおり、乱暴に書きなぐられたような粗筋と脇役陣のとってつけたようなエピソード、そして体裁を整えただけの結末。まぁそれは大塚小説を読むときはいつも感じることで、「とりあえず書きました」という感じのするぶっきらぼうでシンプルな文体がいっそ心地いい。物語はナイーヴ。LARP*1めいた主人公たちの行動の軌跡が神話的といえる幼年期からシステマティックな日常の現実世界へと至るまでの過渡期、アドゥレセンスの物語と重なって切ない。とはいえ・・・ずいぶんあっけなく終わっちゃったなぁ。虚実の曖昧さをもっと錯綜させるとか、登場人物のサイドストーリをもっと書き込むとかいろいろできそうなものだけど、そうしないのが大塚英志流なのでしょう。それに大概の伝奇小説は大風呂敷が手におえないほど広がっているときが一番楽しいのだから、摩陀羅という物語も完結してほしくはなかったなとは思う。伝奇小説として完結させたかったわけじゃないだろうから、文句のつけどころが違うと言われてしまえばそれまでなのだけど。