『冷たい心の谷』[bk1]
読了後ふと思う・・・クライヴ・バーカーってもう短編書かないんですかね。
っていうかこれ、あらすじだけ取ってきたら日本昔話集に入っててもおかしくない。民話とか伝承とか遠野物語とか聊斎志異とか、そういったものはぼくのファンタシィ原体験にずいぶん近いところにあって、最初は北欧神話で次が・・・そんなことはどうでもいいか。
バーカーの魅力は異世界を読者の前に提示するときのハッタリの効いたプレゼンテーションだ。中年郵便職員が全米から集まってくる配達先不明の郵便物のから隠された秘法を見つけ出し、遍歴してついには薬物中毒の天才科学者をそそのかしてお互いに神とも精霊ともつかない存在となって戦いを繰り広げることとなる『不滅の愛』の第1章を読んだときは失禁するかと思った。屑郵便に埋もれて見出されるアートの存在、見かけどうりでない世界、時間の輪のシャーマン、ショールという種族、夢の海とそこに浮かぶ島、サルから進化した少年、人を神化する生命を持った霊薬ナンシオ、善と悪の象徴的な神格を得たマッドサイエンティストと元連邦郵便局職員の壮絶な争い・・・これらが文庫80頁にぎっしりと詰め込まれて差し出されたものだからたまらない。『冷たい心の谷』はそこまで派手ではないが、悪夢的状況の描かれた無数のタイルに埋め尽くされた謎めいた部屋を読者の前にさらりと差し出し、その部屋を売ってしまったがために滅びを迎えてしまうルーマニアの修道院を淡々と綴るその手つきは渋い、痺れる。これを読みたいがためにぼくはバーカーの本を手にするのといってもいいくらい。
.。oO(時間がないので続きは明日)