ハロルド・ショーンバーグ、アイラ・モスナー、ホリス・アルパート『理想のゴルファー』

帰郷先で発掘したなつかしの一品。「この世にシングル・プレイヤーを圧倒する数のダブルボギー・ゴルファーが存在するそのわけは、神がこれを愛しているからにほかならない」えーと、それはそうなんだけど(笑)、なんでそこからマルクス・アウレリウスや聖フランチェスコホロヴィッツがでてくるのかオイ(←喜んでます)…というまえがきにはじまって、「現実的に考えれば、大多数、何百万のゴルファーにとってパーは無関係であり、その事実は今後も変わらないだろう。そしてそれは貴族的で反民主的なゴルフの歴史によって育まれてきたスコアリングシステムのほうに、むしろ問題はある」まあ、いいたいことは分からんでもないが(笑)、だからといってジェームズ二世やカール・マルクスやエンサイクロペディア・ブリタニカを引き合いにだすのはやりすぎちゃうんかい(←喝采してます)という序論を経て、「実際、古典的ゴルフ・スウィングは、あらゆるスポーツの中でも、もっとも不自然なものであり、神は人にパー・ゴルフをさせるつもりはまったくなかったに違いない。華麗なるショットができる限られた人間は、はっきりいえば奇種なのだ」という、ちょっと引用の文脈を間違えれば批難の雨あられを浴びそうな宣言によって幕を開けるこの『理想のゴルファー』という本は、しかしこんなのは本当の序の口なんだから呆れかえる(←いいぞもっとやれ)。ティーチングプロの書く、一般人には解読不能な解説書を、読む者を恍惚とさせる一編の詩のようだと喝破し、対抗できるのは『純粋理性批判』のなかの一節ぐらいだろうと嘆息し、ゴルフスウィングを理解するためのもっと簡単な方法を三角関数微積分記号を駆使して(…え?)解説するごらんの有様。頁がすすめば、SMショップにでも売っていそうなスイング矯正帯や、ダブルボギーゴルファーのための驚くべきティー講座、そしてバンカーをめぐるストラヴィンスキーシェーンベルクの戦略と勝負(オイコラもっとやれ)などが次々に繰りひろげられる。理想のゴルファーというタイトルや、推薦文とまえがきにジャンボ尾崎を据えているところなどちょっと見にはストレートなゴルフ啓蒙書なのに、それに見事に反した奇書とか言いようがない奇書。訳者が北村太郎でなければ決して手に取らなかったはず。あまりにもパタフィジカルなユーモアスケッチの傑作。