スティーヴン・ブラスト『勇猛なるジャレグ』[ハヤカワ文庫FT]がめちゃくちゃ面白かった。幻獣の性(さが)を気質として血統の中に刻みこんだ17の氏族によってなる帝国ドラゲイラ、その中のマイノリティ“東方人”でありながら妖術と策謀による腕前で暗殺者としてのひとつの地位を築いてみせたヴラド・タルトシュが、今回自らを悪鬼(デーモン)と名乗る胡乱な客から請け負った注文は…というのが導入といったところ。ドラゲイラと東方人の関係は星界シリーズ@森岡浩之のアーヴと人類みたいなものだととらえてもそんなに間違いじゃない。とにかく瞬間移動あり死者の復活あり魂を喰らう剣の大振舞いありとガジェットの豪華詰め合わせを差し出し、こじれにこじれた事態を収拾するために頭をひねりにひねったヴラドがひりだしたここ一番のプラン最後の最後に持ってくるまで隙のない緊密でかつ人物描写や会話にユーモアを忘れないスタイルは賞賛して有り余る。まるでウェストレイク/リチャード・スタークのクライム・ノヴェルを読んでいるようなドライヴさえ感じられる。とくに暗殺の対象として登場するメラーのプロファイル/大胆な行動/不敵な挑発/ドラゲイラの気質を手玉に取る構図の妙はすばらしい。直接的な描写の意外な少なさにもかかわらず、この大いなる標的の肖像は強く印象に残っている。なんにせよ楽しみなシリーズの幕開けなことに変わりない。邦訳予定も(少なくとも)2作整っている。B級パルプ・フィクション愛好者ならすぐにでも手にとって間違いない、おすすめしておきます。