新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』[ハヤカワ文庫JA/早川書房][bk1/amazon][bk1/amazon]

巻頭巻末に意味ありげに放り込まれた“マンハッタンのための<回顧的(レトロアクティヴ)なマニフェスト>の書”『錯乱のニューヨーク』を執筆した著者の名を想起させるフレージング、章末に丁寧にも掲示された地方都市の計画図、エピローグで告白される語り手の“現在”の生業と“時間”のもたらした変貌…これだけ赤いニシンを嗅がされればこのテクストが、擬人化され一人の少女の姿に託された、今まさに変容せんとする都市/世界モデルの一瞬のダイナミズムを、ノスタルジックな回想として“騙”られた追想録と読み換えてみても、まあそう罰は当たるまい。こう解釈すると、これまで常に少年少女たちによって飛び出されてしまう存在として閉鎖性のメタファを負わされてきた“都市”という概念が、この“物語”では少年少女たちを置き去りにしてしまうという、ちょっとした倒錯としても読める。悠有を取り巻く4人の思考/行動をそれぞれ別個の都市論に変換して楽しんでみるのも面白いかもしれない。