↓理不尽な我儘を言っていることはわかっているし、そもそもこの物語が『神狩り2』という“しるし”を背負わず、ただ単に『リッパー』の名前だけで出ていたらこんなに憤りを覚えなかっただろうとも思っている。なんというか山田正紀に対しては期待するベクトルを間違えてるだけかもしれない。ぼくが好んで取り上げる『神獣聖戦』や『ジャグラー』『ジュークボックス』などは目眩ましのようなピカピカの造語に彩られたジャンクでポップ、背後に重みが一切存在しない反物質的にロケットブーストされたウルトラライトなノヴェルなのだから。しかしミステリ/探偵小説の文脈から描かれたプレ“神狩り”ともいえる『神曲法廷』での、終幕時に振り上げたあの握り拳に至る物語を読んだ身としては、どうしても限界を超越しようとの期待をしたくなってしまうのではあるけれど。
っていうか、勢いで今『神獣聖戦』を読み返しているんだけれどもサイコーっすねコレはやっぱり。造語の格好よさだけで泣けるってことが世の中にはあるものです。“脳《ブレイン》”は十九歳になったとき、さらにもう一度大脳を細胞分裂させたのだ。(中略)まさしく知恵熱だった。(中略)“脳《ブレイン》”は視床下部から航宙刺激ホルモン《FISH》なるものを分泌し、生理的に超光速航行を可能にしたのだ*1、Brainのクローン脳rain、非対称航行《アシンメトリー・フライト》、新たなフロンティア背面世界に飛び込むため鏡人《M》=狂人《M》という人にあらざるものになる措置を受けるクルー、“大闘争”によって大宇宙を版図とし1兆にも達し繁栄していた人類圏がじゅっと蒸発していたり、rainの不具合を修正するために“大いなる疲労の告知者”によって過去からBrainの恋人だった少女の情報を召喚して探査させたり…、余計な薀蓄抜き、レッドゾーンまでチューニングされた軽佻浮薄の極み。現在はe-NOVELSのサイトで入手できるのでお試しあれ。「交差点の恋人」「怪物たちの消えた海」「幻想の誕生」「ころがせ、樽」と続く神獣聖戦1巻のラインアップの、シュールレアリスティックなイメージによって描かれる超越幻想絵巻はそれこそ目が眩むこと請け合い。
 

*1:『神獣聖戦Ⅰ』「交差点の恋人」より引用