アンドルー・フォックス『ニューオリンズの白デブ吸血鬼』[アンドリュース・プレス][bk1]

世界No.1の脂肪分とカロリーを誇るニューオリンズ市民の血液を飲み続けたせいで超肥満体になってしまった吸血鬼…という設定だけで勝ったも同然のコミックノヴェル。とはいえそれじゃあニューオリンズのヴァンパイアはみんな丸々としてるのかというとそうでもない。美しい均斉を保つため栄養のバランスの取れた血液を確保してる吸血鬼達もちゃんといる。本書の主人公はそーゆー連中を狩人としての心を忘れた堕落者として見做し、おのれの審美眼に従って丸々太った人間を襲い血を啜り、そして丸々と太っていく…。
…っていうかこの主人公をみてると、おのれの欲望のままジャンクフードを喰らい丸々と太った最近の児童たちを想起させられる*1。“恐怖ずきん”なんてアメコミヒーローの幼児的解釈だし、いざ敵役との対決する場面での妙に気弱な倫理観とかそのくせ人間にはまったく容赦ないところが自己中心的で、とにかく思考回路がいちいち幼くてムカつく(褒め言葉)。
まあそーいう風に考えていけばこの小説、吸血鬼であるがゆえ大人になることを永遠に拒絶させられた、我儘なクソ餓鬼を主人公として据えたジュブナイルとして読んでも、それほどおかしいことじゃぁないと思う。ラストまで首尾一貫してchildishで、それでもなんとか苦悩と困難を乗り越えていくのは結構快感。巷にうんざりするほど存在してる「事件/問題を解決するために、主人公がなんだかんだで成長してしまう」ようなステロタイプビルドゥングスロマンに対するアンチテーゼなんじゃないですかね?

*1:…むかしのガキどもは食う以上に動き回ってガリガリだったもんだよねぇ