有川浩『空の中』[メディアワークス][bk1]

でっかい怪獣が出てきて、それにかかわる少年と少女がいて、ネゴシエイター役の中間管理職が飄々と大活躍する構図はハインラインの(私的には『ルナゲートの彼方』と並ぶ最高)傑作『ラモックス』[bk1]を思わせるし、実際『ラモックス』と並べても遜色ない面白さであるといってもいいのだけれど、どこか(大げさに言ってしまえば)牧歌的ですらあった『ラモックス』比べると『空の中』のボーイズ&ガールズは、なんていうかセカイ系のシッポでも引きずってるかのような陰をまとっていて…そして物語はそのことに対する批判の方向に向かっていっている印象がある。
個と個の関係性のみで世界の在りようを蹂躙するセカイ系という括りは、もちろんその歪さと不健康さこそが魅力なのではあるけれど、いたずらな無頼と破滅への志向や狂/病を擬装するその姿に付きまとう幼さと甘えを感じさせて、機嫌の悪い日にそんな物語に触れるとナニカに向かってぶん殴りつけたくなる衝動を覚えてしまう。他者の概念を持たない異生体ディックはかたくなな個のメタファと捉えることもできるし*1、中盤の→ 一気にアポカリプティックな場所へと物語をもって行けそうなところでも、じっと事態を沈静化させる方向へと物語を誘導するところ ←とか、そして本書の終盤で繰り広げられる討論などは…いわばセカイ系の毒素に対する処方箋といってもいいでしょうか。
とまあこんな変なことを考えなくても、他にも異質な思考を持つ異生体とのファーストコンタクトものとしても読んでもいいし、揺れる少年少女たちの心を追っかけてく青春小説と読んでもいい、なにより電車を乗り過ごしてしまいそうなぐらい読み耽ってしまうストーリィテリングだけでもすばらしい。おすすめです。

*1:このディックという生物からぼくが想起したのは、シルヴァスタイン『ぼくを探しに』[bk1]ですが、いかがか?