山本弘『審判の日』[角川書店][bk1]

5作の短編の中では「時分割の地獄」作者の自画自賛も納得の傑作。ある人間に対して殺意を抱いてしまった人工知生体のアイドルがいかにして殺戮を成し遂げるか、という過程をそのまま“個人的な認識と世界の本質の関係性”に直結させていく豪腕ぶりはすばらしい。最後の台詞もさりげなく余韻が深い。……といってみたものの実は好みという点からすれば冒頭の「闇が落ちる前に、もう一度」が断然なのです。だいたい語り手(って言うか手紙の書き手)が君を自由に遊ばせることで、僕の包容力の大きさを示す・・・とか「便りがないのはいい報せ」って言うから、僕はあまり心配してなかった。とかいう言葉を実際に使っちゃうような見栄っ張りのヘナチョコ君で、その彼が世界的に呆然とするような大ネタで遠くモンゴルで恐竜発掘に勤しむ彼女に向けて綴った“I Need You!!”メールには「ふたりジャネット」の法螺吹き連中も思わずもらい泣きすることでしょう。*1

*1:追記:表題作はアポカリプスものだけれど、このテーマ最狂のケッ作である森奈津子西城秀樹のおかげです」を読んでしまった後ではどうにも行儀がよすぎる感じですな。他2作は都市妖怪伝説というか郊外のUMAというべきか、ホラーの佳作としてなかなかコワイ