C・J・ボックス『沈黙の森』[講談社文庫][bk1]

「普段は凡庸で押しが弱く他人に侮られがちだけれど、“いざ”自分の大事なものが危険に晒されたときは一歩も引かず暴力の行使も躊躇わない」というキャラクターって、アメコミのスーパーマンみたいな、言ってみれば“理想的な国家”…って言うか、押し付けがましいとこが無くって多少やばそうなことをやっても大目に見てくれてしかも困ったことが起きたら何にも言わないで助けてくれるヒジョーに都合のイイ庇護者の“暗喩”だったりするんじゃないかな、ってことは結構いつも考えてる。だから本書の解説で主人公ジョー・ピケットの“そー言う人物像”が絶賛されたなんて事が書かれてるのを見ちゃうと、ついワニ目になって冷笑半分で身構えてしまうんだけれど…いやコレはとてもイイ本でしたよ。主人公の造形も不器用なモラリストで厭味はないし、なんてったって禁猟期に鹿を撃った地元ガイドと猟区管理官ピケットが対峙するプロローグがいい。銃声を耳にしたピケットが、これから起きるであろう面倒事を想像して「空耳であればいいのに」と考えたり、鹿を撃った地元ガイドに対して毅然と振舞おうとしてもコケにされたあげく銃を奪われたり、銃を奪いピケットを脅してる立場のガイドのほうも自分がやってしまった行為に驚き、怯えてる様にも見えたり…「こいつは、まったくもってえらいことになっちまったぜ」*1。それに続く第一章で、その地元ガイドはピケットの家の裏庭で死んでいた。決して取り戻すことのできない何かを彼から奪い去った*2男はなぜここに来て、ここで死んだのか…。事件の凶悪な概要が見えてくる中盤以降は、ほんとうに頁を捲る手が止まらない。ピケットの娘シェリダン(←萌え)を脅す悪役のクソ憎たらしいところや、力強いラストの対決も興奮度が高い。無駄の少ないコンパクトな分量も好印象*3。次回翻訳分は連邦政府対サバイバリスト(!!)の闘いにジョー・ピケットが巻き込まれる話らしくて、オレ的期待はそーとーおっきいですよ。オススメ品。

*1:『沈黙の森』p15

*2:『沈黙の森』p26

*3:いたずらに長いスティーヴン・ハンターの近作群もこれ位の長さにしてくれればいいのにねぇ、とか考えたり考えなかったり。ちなみに『極大射程』『真夜中のデッドリミット』はマイ・オールタイム・フェヴァリット、でも『ダーティホワイトボーイズ』以降の作品はあまり評価してません