八杉将司『夢見る猫は、宇宙に眠る』[徳間書店][bk1]

医療ナノマシンメーカー勤務のキョウイチはカウンセリング施設で研修生ユンとその恋人マークに出会う。二人と付き合ううちにキョウイチはユンに惹かれていくようになり、その思いはお互いともに“クローン”であることを知ったことでますます高まっていく。しかしユンはマークとともにテラフォーミング途上の火星に移住することになる。…その半年後火星は突然緑の星になった。そして火星で戦争が始まった。
ここまで第一章、プロローグに当たるといっていい。個人の意思を写し取ったシミュラクラ/コミニュケーションツールの“トゥイン”、ナノマシンによって“無から有を生む”力を得た火星移住民たちとの戦闘、多重並行世界…グレッグ・イーガンを思わせるガジェットがポンポン出てくるけれど、イーガンほど深くまで理論を突き詰めてるわけではなく、物語はVIP(事件の鍵を握るユン)の奪回作戦でほぼ終始している。スペキュレーションは少し物足りないもののエンタテインメントとしては悪くない、面白く読めたことは確かです…が、エピローグでちょっと待てよと言いたくなる。エピローグが不満なのではなく、むしろそこで披露される世界観は第一章とあわせて俯瞰すれば相当にセンスオブワンダーをかき立ててくれる。でもね、もしそーいうイメージを提供するんだったら一章とエピローグの間で奪還野郎Aチームやってる場合じゃないでしょう…そう小一時間問い詰めたい。肉はまあまあ、衣もパリパリ、でもその二つが絶妙なハーモニーを醸し出していないトンカツを食べた感じ。