ケネス・J・ハーヴェイ『自白の迷宮』[扶桑社ミステリー文庫/扶桑社][bk1]*1

登場人物は(一応)3人、自分の妻子を含めた連続殺人を自白して拘留、精神鑑定を受けている英文学教授Xと鑑定担当医のカベサ、そして事件担当の刑事サングレ。カベサはXが無実であると考え、サングレは有罪の前提のもとに、ふたりは患者Xと面談を続ける。XはXでふたりを煙に巻くような言動を繰り返し、さらに面談と平行して書いている(ふたりに読ませるための)日記では、事件の鍵を握っている(と思われる)女カサンドラとの変態的で扇情的でポルノグラフィックなセックス&ヴァイオレンスの描写で埋め尽くされた、事実の回想とも偽装とも取れる挑発的な記述をしたためる。この日記と取調べの様子が交互に取り上げられる形で本書は進行していくわけなのであるけれど…最初こそ“日記=虚偽/韜晦”、“面談=事実/現実”というスタンスではあるものの、しだいに取り調べの場面にも幻想的な描写が出てくるあたりで「おや?」と思うことになる。半創作ともいえる日記のほうに怪しい場面がでてきても別に何のこともないのだけれど、いくら視点がXに据えられているとはいえ仮にも三人称客観視点で描かれている取調べの場面に現実感を損なうような描写を持ってくるということは、そもそもこの医者⇔患者⇔刑事の対話というものがXの心象というか妄想なんじゃないかとも思われてくる。…なんていうか、バラードとか60年代のニューウェーヴSFを思い出させる、妄想と現実の認識をぐらぐらさせる作品でした。とってつけたようなカタルシス0のラストはちょっと好み。あと日記部分は非常にエロいです。