坂本康宏『シン・マシン』[bk1]

機械化汚染症候群(MPS)の流行、そして罹患した人々の脳は擬似テレパシーによってネットワーク化され社会構造が変容し、病に罹ることの出来ない人間はマイノリティとしてつまはじきにされる世界。突発性のMPSに侵された弟を救うために主人公はMPSの抗体を持つと思われる女性を捜し求めることになるが、その過程でMPSによって異常能力を身につけたエージェントと闘い、過剰に汚染された異形の機械/生体ハイブリッドの混沌を目撃することになる…
粗い。生体/機械・人間/非人間・現実/虚構のゆらぎの問いかけがそこかしこで盛り込まれてるけれど、思弁的といえるほと深く掘り下げられてはいない。失われつつある“人間的なもの”を称揚するために、その対立項としてだけ“機械的なもの”を取り上げているような気がしているために、登場人物たちの対話を読んでいても価値観を揺さぶられることがほとんどない。MPS汚染された人間すべての脳が繋がった状態…という設定も、“ちょっと便利になった携帯電話”ぐらいの扱いしかされていないのも寂しい。どのガジェットももっと面白くなりそうなんだけれど、極めてファッショナブルにしか用いられていないのが歯がゆい、そんな感じ。地の文や会話がずっと説明調なのも、どうにも印象がよくない。超常能力者との戦いや、暴走するMPSによって異形の巣窟と化した街などけっこう面白い場面もあるのだけれど、全体としては山田正紀*1エピゴーネンという感じがしてしまう。勢いはあるのでそれなりに引き込まれるのだけれど…。

*1:ジャグラー』、『JUKEBOX』のころの作品に近いかな