ブルース・スターリング『塵クジラの海』[bk1]

バンド・デシネの香りも漂う、異世界冒険ロマンの小品。クレーター内に溜まった分子大の塵の中の生態系、狂気を含んだ科学的探究心に憑かれた塵鯨漁船長、蝙蝠のような翅をもつフリークスと主人公の痛々しい性愛(なにせ、人間の汗や細菌に過剰に反応しちゃうので、手を握るだけでも大変なのにキスまでしちゃうのだ)。こういう雰囲気をもった作品に出会うのは本当に久しぶりで、シルヴァーバーグ『夜の翼』、スワンウィック『大潮の道』あとはディレイニー大原まり子の諸作に見受けられるくらいかしらん。考えてみれば『スキズマトリックス』[bk1]も自分の姿のありかたを変容させてまで外宇宙へとフロンティアを求めていったロマンとして読めるのだから、スターリングの第1長編がこういう作品であることは驚くことじゃないのかもしれないけれど、それじゃもしもサイバーパンクというムーヴメントが無かったとしてもスターリングは今のようにポップでラディカルなポリティカルSFへと向かっていったのかなぁ…とか、考えたりもしました。
.。oO( 非SFファンで、グレッグ・イーガンテッド・チャンを読んで面白いと思った人には『タクラマカン』[bk1]もオススメしたいですね、ぜひ )