山本弘『神は沈黙せず』[bk1]

昨年末から少しづつ読んでたんですが、神の顔が出てきたあたりから一気読み、面白うございました。超常現象に対する安易な信仰を赤裸々に描くあたり、これは行動倫理の規範を自分自身の内部におかない人々を批判する、山本流『痴愚神礼讃』なのかとも思いましたが、最後まで読んだときに思い浮かべていたのは『地球平面委員会』[bk1]でした。浦賀和宏が冷笑と皮肉に歪んだかたちで読者に向かって投げつけた問いかけを、山本弘は丹念に積み重ねた大量のエピソードを収束させるかたちで(物語の内部だけで)まとめあげていて、そこでうたいあげられる自律する人間的存在の意義の高らかな宣誓はじつに感動的。そのために神の実在を仮定してしまうあたりが実に豪快というかなんというか…(笑)
神の実在することになってしまったがために変貌してしまった世界の倫理…というラストシーンでは『過ぎ去りし日々の光 』[bk1]を思い浮かべたりもしました。現在と過去のありとあらゆる場所を見ることのできる、いってみれば神の眼を実現する技術を持ってしまった人間社会の変容がたっぷり書かれたこの作品もけっこうお気に入りです。なんといっても、恥も外聞もなくしてしまった(笑)世界観は本当に身が軽そうで、(ほんのちょっと)あこがれますね。