『ネジ式ザゼツキー』[bk1]

記憶障害の男が書いたファンタジーに秘められた謎はとても魅力的ではあるのだけれどいかんせん過去の事件で事態がそれ以上広がっていくことは無いし、"推理の試行錯誤"、"事件の捜査"といった動的なダイナミズムにも欠けるため頁をどんどん捲っていく快感は小さい。ファンタジー小説の部分も、前もって"この話の中に潜んでいる要素を詳細に検討し、丹念に解体すれば、われわれは失われたあなたの過去にたどり着くこともできるはずです"*1といわれてしまっては、マジックショーを見る前にタネの存在を確認させられてるようで、無心に楽しむってわけにはいかなかった。過去の話のパートやいろいろな薀蓄、ラストの謎解きの場面など引きつけられるところはけっこうあったので、もっと面白く読めてもよかったんじゃないかなとは思いますね。

*1:講談社ノベルス『ネジ式ザゼツキー』p55