『東京サッカーパンチ』[bk1]

・・・ビリー・チャカはルポライター。筋金入りの芸者マニアで、ちょいと筆をとれば実刑確定となった知人の弟のためエクセレントな嘆願書で起訴の取り下げさせ、その知人の夫婦仲があやしげならば感動的でリリカルな一篇の詩で内面の静けさを信仰心に近い情熱に変えてみせる文才の持ち主。乱闘に巻き込まれても自白剤を打たれても、クリーヴランド一の販売数と評価を誇るアジア系ティーン向け雑誌で取材した技で切り抜ける。今回取材のため東京に立ち寄ったチャカは渋谷道玄坂のフィッシャーマンズバー<紫の地引き網>で、まるで葦の茂った沼から立ちあらわれたサーカスのピエロのような女と出会った。チャカにはすぐわかった。間違いない彼女は芸者だ、そんな見かけにゃおれは騙されないぜ!・・・
序盤、っていうか最初の数ページの紹介でもうおなかいっぱいです。極めてエキゾチックジャパンなガジェットをこれでもかとばかり放り込み、礼儀タテマエ腹芸といったニポン式外交術を限界までチューンアップしたような会話恫喝減らず口と、奇怪なまでにデフォルメされたニポン風俗描写・・・なんていうか極彩色テクニカラー仕立てのゴーメンガーストを平面展開したようなフリーキーさ。プロット自体は、謎めいた女と友人の謎めいた死に巻き込まれた雑誌記者が魔都を縦横無尽に駆け回り小突かれ意外な真相にたどり着く・・・というまぁ言ってみれば意外でもなんでもないタフガイノヴェルなのですが、そんなのは激辛100倍カレーを”香辛料の入った野菜と肉のごった煮”と紹介するようなもの。ここに入れられた香辛料は尋常ではないのです。ヤクザも探偵も警官も珍走団もそのオカシサは見ものだけど、やっぱり芸者の正体が明かされたときは天を仰ぎましたね、文字通り。「ヤッチャッタよ、てへへ」という作者アイザック・アダムスンの顔が浮かんできました、顔知らないけど。うん、おすすめします、おもしろかった。
でも一応最初の数ページは立ち読みしといたほうがいいかもね。買ってから「なんじゃこれは!」と叫んでも僕の責任じゃないですよ。